解説・豆知識
被相続人の住所が不明の場合 相続放棄の管轄
事案の概要
A市内に存在する不動産の所有者Ⅹが死亡した。
Ⅹの相続人は父Yである。
その後Yが死亡し、その相続人はめいにあたるZである。
今回、相続放棄をしたいと考えているのはZであり、被相続人は、Xから不動産を相続した(と考えられる)Yである。
ことの発端は、ある日、Zの自宅に、A市役所から「空家等立入調査等実施通知書」と題する書面が届いた。
Zはその書面に記載されている「登記簿上の所有者」:「Ⅹ」という名前にまったく心当たりがなかったが、戸籍等を取得していくうちに、上記の親族関係が明らかとなった。
ここで、相続放棄は、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」に申述しなければなりません。
管轄に関して定める家事事件手続法第3条の11、第4条を簡単にまとめると、以下のようになります。
● 被相続人の住所又は居所が日本国内にあるときはその住所地または居所を管轄する家庭裁判所
● 居所がない又は知れない場合には最後の住所地(ただし日本国内でなければならない)を管轄する家庭裁判所
しかし、Yの住所地を調査するも、死亡したのが10年以上前であり、戸籍の附票が廃棄されていたためYの住所に関する情報はまったく得ることができませんでした。(居所に関する情報も皆無)
そこで、家事事件手続法第7条を簡単にまとめると、
● 管轄が定まらないときは、
①審判又は調停を求める事項に係る財産の所在地
又は
②東京家庭裁判所
の管轄に属するとされています。
今回は、「相続放棄」であり、本来、「ある特定の財産」との関係を断つために審判を求めるものではありませんが、本件では、被相続人に属する財産の一部としてこの不動産が存在し、逆にこれ以外の財産の存否が不明なため、申述人の相続放棄における主目的は、この不動産に関する権利義務からの解放に尽きるとも言えます。
よって、「審判又は調停を求める事項に係る財産の所在地」を管轄する家庭裁判所に申述をし、無事、受理されました。